自らの持っているスキルやモノが、自然と社会の役に立つ。
それはとても幸福な状態だと思いますし、そうすることで、自身の自尊心も強く満たされます。
(穿った見方をすれば、役に立てるはずのスキルやモノが社会に還元されていない状況は、非常にもったいないことでもあります。)
今回はそんな点に目をつけて、アレが必要だ!と悩んでいる側(=需要)と、潜在意識で「役に立ちたい!」と思っている側(=供給)を結びつけて社会を最適化する“需給マッチング”の法則を取り上げます。
[Chapter1] 事例から法則を読み解く
「高校生が再生した車いす」が、海を超えて世界を笑顔にする。
日本では、サイズが合わなくなったり故障したりといった理由から、年間3万台以上もの「車いす」が廃棄されているそうです。
一方、アジア諸国では、車いす自体の数が不足していたり、高価過ぎて購入することができない子どもや高齢者がたくさんいるといいます。
そのような状況に対し「自分たちの得意な技術で役に立てれば……」と立ち上がった組織がありました。
それはなんと、栃木県立栃木工業高校の生徒たち。
同校の生徒会が中心となり結成された「栃工高国際ボランティアネットワーク」は、地域のボランティア団体やNGO等と連携して全国から使われなくなった車いすを収集。
それらを福祉機器製作部の生徒たちが修理し、輸送ボランテイアと協力して世界各地に届けています。
『空飛ぶ車いす』と名付けられたこの試みは1991年から20年以上も続いており、活動に共感した他の高校や大学、社会人グループなどが次々に参加表明し、2014年末現在で、80を超える団体が参加する大きなプロジェクトに発展。
この活動には世界中から感謝の声が届いているそうで、例えば、とあるモンゴルの主婦。
彼女は火力発電所で働いていた際、事故で両足を失い失意のどん底にいました。
しかし、同校で修理された日本製の車椅子を使うようになったのを機に、障がい者の陸上競技に没頭。
そして、地元の3000m競走で銀メダルに輝いたそうです。
主婦から寄せられた手紙には、「銀メダルは車いすの性能が良かったためです。」の一言。
この話を聞いて、思わず胸が熱くなりました。
このように、◯◯が必要だ!と悩む需要サイドに対し、「身につけた技術やモノで社会に貢献したい!」と思っている人たちを供給サイドと見立ててマッチングすることで、よりよい社会に最適化していくことができると考えられます。
先程は高校生と世界の障がい者による“需給マッチング”の例を取り上げましたが、他にも社会人版としては、特定非営利活動法人クロスフィールズという会社が展開する「留職プログラム」というものがあります。
「留職プログラム」の内容は上図の通り、スキルを持った「社会に貢献したい!」欲のある社会人を途上国に派遣して、現地で手に入る素材・製造力・人脈を活かして社会課題を解決してもらう、という研修型インターンシップです。
企業としては、若手社員のグローバルなマネジメント力・実行力を鍛えることができ、途上国は優秀な人材を確保し課題解決に当たることができる、とても優れた仕組みだと思います。
うまく需給のマッチングを見い出せるかが、成功の鍵となりそうです。
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[ “需給マッチング”の法則|Point ]
◎問題解決に貢献しうる「需要」が何かを見極める
◎世界各地の人から、心の奥・隅に潜む「願望=供給」欲求を見抜く
◎需要と供給を無理なく結びつける仕組みを考える
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以降では、この法則を念頭に置きながら、活用イメージをさらに深めていきます。
[Chapter2] 法則から事例を読み解く
どうすれば「臓器を提供したい人」を見つけられるのか?
臓器移植をしようにも、臓器の提供者が足りず、順番待ちの列が後を絶たない…
そんな話を、一度は耳にしたことがあるかと思います。
この状況は、ブラジルでも一緒でした。
“需給マッチング”の法則にのっとって課題解決策を考えるのであれば、臓器の提供を待つ需要者のために、どのようにしたら「供給者」を見いだし、増やすことができるのか?
ブラジルのフットボールクラブ「スポルチ・レシフェ」が目をつけたのは、なんと、自分たちのサッカーチームのサポーターでした。
なぜ、サッカーチームのサポーターが、臓器提供者になり得るのか?
もともとサッカーが盛んなブラジルでは、多くの市民が熱狂的に地元クラブを応援しますが、中でも「スポルチ・レシフェ」のファンの“クラブに対する愛情”は並大抵のものではないといいます。
そう、つまり、サポーターたちは、自分が生きている限りずっとクラブを応援し続けたい。
さらに言えば、死んでも/生まれ変わってもクラブを応援し続けたい。
それほどまでに、クラブのことを愛しているのです。
そういった“強いクラブ愛”を背景に実施されたキャンペーンが、「Immortal fans」という施策。
万が一ファン自身の身に不幸な事故が起こって“突然の死”を迎えたとしても、“臓器のドナー登録”をしてさえいれば、自分の臓器を必要としている“他のサポーター”の体の一部になり、永遠に大好きなクラブを応援し続けることができる。
すなわち『永遠にファンであり続けられる』ことのできる、臓器提供カードを配布したのです。
この企画に先立ちプロモーション用におさめた動画では、角膜移植を必要とする男性が「あなたの眼でスポルチ・レシフェの試合を見続けます」とファンに訴え、肺移植を必要とする男性は「あなたの肺でスポルチ・レシフェのために呼吸し続けます」と訴えました。
このプロジェクトの結果、51,000枚を超える臓器提供カードが発行されました。
(これは同チームのホームスタジアムの収容人数を上回る数とのこと。)
そしてこの試みはテレビでも大いに報道され、臓器提供のドナー登録者は1年で54%増加。
心臓移植と角膜移植の臓器提供待ち患者数は、ゼロになったそうです。
一見、関係のなさそうな「サッカーのサポーター」の心の奥底にある願望を見抜き、臓器提供と結びつけた、非常に秀逸なアイデアです。
他にも例えば、いらなくなった本をamazonのダンボールに詰めて返送するだけで、世界中の本を必要とする人の元へと届けられる「awaken by Amazon」という企画や、
awaken by Amazon – Future Lions 2013 from Tatsuki Tatara on Vimeo.
独り暮らしの寂しい高齢者の自宅に、栄養が偏りがちな学生を招いてランチ会を開催した「Sunday Grannies」など、
SUNDAY GRANNIES – MCCANN BUCHAREST CASE STUDY from McCann Bucharest on Vimeo.
うまく需要者を供給者とマッチングさせた取り組みは、いずれも話題となり賞賛されています。
必要なモノがない!という状況に陥った時こそ、「どこかに提供したい!と思っている人がいるはずだ」という前提に立って課題解決を考える姿勢が大切かもしれませんね。
[Chapter3] ブレスト・トライアル
施設住まいの高齢者のQOLを上げるには?
筆者にも父方の祖父がいるのですが、現在は片田舎の老人ホームで生活をしています。
(写真はイメージです。)
実家に帰るたび、なるべく祖父のところにも顔を出すようにしているのですが、その老人ホームに行く度に、「なんだか寂しい老後だよなぁ…」と悲しい気持ちになってしまうんですね。
祖父は基本的には寝たきりで、筆者や家族が顔を出した時にだけ、少し会話をする程度。
他の入居者とはあまり馴染めなかったようで、いつも一人で部屋の外を眺めています。
祖父は元気な頃は、筆者をとても可愛がってくれました。
仕事はバスの運転手で、なんだか格好いいおじいちゃんだなと幼心に思っていたことを覚えています。
そんな祖父の老後が、こんなんでいいのだろうか。
もっと楽しみがあっていいはずだし、楽しみがあればこそ、心身ともに元気になるってなものです。
(それに、決して他人事ではなく、ゆくゆくは自分の老後も心配になります。)
施設内の高齢者の方々を見渡しても、シャキッと元気の有り余る人はさすがに数少ないですが、「アクティブシニア」という造語があるように、健康医療の発達により高齢でも動ける人は増えつつあります。
その一方で、核家族化の一般化に伴い、こうして施設に入らざるを得ない高齢者が増えているのもまた事実。
で、あれば。
保育・学童施設と介護・老人ホームの融合という切り口は考えられないでしょうか。
子供を見守る担い手が不足している、保育・学童施設(=需要者①)。
話し相手や生きがいが欲しい、寂しい高齢者(=需要者②かつ供給者)。
ならばお互いを融合させて、まだ元気な高齢者に「子どもと遊んで見守る担い手」となってもらうことで、昨今ニュースにもなっている保育士不足を補いながら、加速する高齢化社会の生きがい(QOL:Quality of Life)の向上にも寄与させるアイデアです。
そんなことを思って調べてみたら、実際に政府の方でも、そうした動きが加速しているようです。
言うは易し、な部分があることは十二分承知していますが、もし実現できたら大変素晴らしいですよね。
筆者は無類の子ども好きですので、そういう施設に将来もし入れたら、自分の新しい孫が何人もできるような気分になれるので、とっても老後が楽しみになります。
同様の取り組みをもしご存知でしたら、ぜひぜひお知らせください。
今後の高齢者対策の動向にも注視していきたいと思います。
※その他の類似施策は、以下URLにまとまっていますのでご参考ください。
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