商材に別の光を当てて生き返らせたい

“プラシーボ効果”の法則

2016年3月19日

 

物事の価値というものに、“絶対的な価値”、つまり誰が手にとっても同じ分だけの価値を感じる、ということは実際にはあり得ません。

小難しい言い方をすれば、“知覚価値”と呼ばれますが、ひとりひとりの“感じ方”にもとづいて価値というものは規定されていきます。

 

で、あれば。

 

物そのものの機能やカタチは変えなくても、“感じ方”を少し変える仕掛けを施すだけで、知覚価値を上げることは可能かもしれません。

 

今回はそんな法則、“プラシーボ効果”の法則を取り上げます。

 

 

 

[Chapter 1] 事例から法則を読み解く

“たった一言”で試乗の体験価値を高める、有能なディーラーの話。

 

Choosing a car at dealership. Thoughtful grey hair man in formalwear leaning at the car and looking away

 

 

とある車会社の、ディーラーのお話。

 

そのディーラーには有能なセールスマンがいて、その方に、「車を売るために、お客さんにどのように試乗してもらっているか?」を伺う機会がありました。

 

その話がとっても面白かったんですね。

 

 

通常、車の試乗というのは、車のキーを借りたら、車に乗り込んで、あれこれ操作しながら気になるところを店員に聞いて…という手順を辿ることが多いかと思います。

 

しかし、その方は違いました。

 

重要なのは、「お客さんを自由に車に乗らせない」こと。

具体的には、お客さんが車に乗り込むと、こんな一言をかけるのだそうです。

 

 

dealer2

 

 

アクセルを踏み込んだ時の、重低音に耳を傾けてください。

力強い唸りと振動で、この車のエンジンの凄さがわかると思いますよ。

 

 

例えばあなただったら、このように声を掛けられた後にアクセルを踏み込んだ時、どのように感じると思いますか?

 

 

僕ならきっと、「あぁ、確かに重低音がすごい(気がする)。(だからきっと)エンジンの馬力がすごいんですね。」と思ってしまう自信があります。笑

 

 

でも、そういうことなんです。

 

つまり人は、事前に何か注意すべき情報を入手すると、「それを確かめる」ための体験をしてしまいます

もっといえば、事前情報によって体験価値は変わる、ということ。

 

先程の例で言えば、もし事前に何も聞かずに車に乗っていれば、特に何も考えないままアクセルを踏んで「おぉ〜」と言って、終わっていたでしょう。

そもそも、アクセルの際の重低音やエンジンの馬力なんて、一般消費者にはほとんど違いがわからないような価値です。

 

しかし、アクセルを踏む直前、「重低音に耳を傾けて」「重低音がすごいと、エンジンがすごい証拠」と事前情報を仕込むことで、漠然と体験させてしまうことを防ぐとともに、その車の魅力に注意を集中させる。

そしてお客さんは、「ココがすごいから確かめて」と言われて体験しますから、「確かめてみたらやっぱりすごかった(気がする)」と、知覚価値はポジティブな方向へと誘導され、結果、購買意欲は高まります。

 

 

だからこそ、「お客さんを自由に車に乗らせない」ことが大事なのです。

 

 

この現象は、いわゆるプラシーボ効果とも言われます。

 

医者が単なるビタミン剤を「風邪薬」と言って処方すると、患者は錠剤が風邪に効くと思い込んで服用します。

すると結果、本当に風邪が治ってしまう、といった現象が起き得ます。これが、プラシーボ効果。

 

これも先程の車のディーラーの話と同様で、人は事前情報にもとづいて強く思い込むと、体験も本当にその通りに感じやすくなるという現象に、きちんと名前がついてるんですね。

 

(あるいは、カクテルパーティ効果に似た現象とも言えるでしょう。うるさい場所でも、相手の声に集中すると、実際に声が聞こえやすくなったりする、あの現象です。)

 

 

デザイナーのツタイミカさん制作のお皿に「マンガ皿」というものがありますが、

 

 

dish

 

dish1

 

 

これも上手にプラシーボ効果をつかった例といえます。

普通に料理を出されるより、料理が美味しそうであったり愛着が湧いたりしてしまいますね。

 

 

物の機能やカタチは簡単に変更できませんが、コミュニケーションひとつ変えることで、物の価値を高めることが実際に可能です。

 

特に顧客との接点の多いサービスなんかでは、とても大切な視点ではないでしょうか。

 

 

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[ “プラシーボ効果”の法則|Point ]

商品やサービスの「差別価値(魅力)」を的確に把握する

顧客が体験する際、差別価値に注意を傾けたくなる「事前情報」を刷り込む

差別価値は「五感(視覚、嗅覚、触覚etc)」に訴えると勘違いしやすい

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以降では、この法則を念頭に置きながら、活用イメージを深めていきます。

 

 

 

[Chapter 2] 法則から事例を読み解く

何でもない「街の散策」を、プラシーボ効果で楽しくできないるか?

 

観光促進やまちづくりなどに携わっていれば、誰もが一度は考えるでしょう。

 

どうしたら、来客が街に出て色々と見て回りたくなるか?

どこにでもある普通の街並みを、どうしたら魅力的にできるか?

 

単なる「街の散策」を、“プラシーボ効果”の法則をつかって楽しいものに変えられるでしょうか?

 

 

 

この法則を活用する場合、重要な視点は「事前にどんな情報を与えれば体験価値を変えられるか」です。

 

以下、ご紹介する2つの事例は、いずれも示唆に富むのではないでしょうか。

 

 

1つ目の事例は、アーティストのAkin Bilgic氏が行ったパブリックアート“The SF Mirrors”

 

彼はとある街の様々な場所に、メッセージの書かれたこんな鏡を設置しました。

 

 

sf1

 

Track down your favorite teacher and thank them for helping you get where you are today.

 

”好きだった先生を見つけて、自分が今の場所にいられるのは先生のおかげだと感謝しよう”

 

 

sf2

 

Sometime this month, do something you’ll remember for the rest of your life.

 

“今月のどこかで、これからの人生でずっと忘れることのない何かをしよう”

 

 

sf3

 

Looking good. Ask him/her out for some coffe today.

 

“よし!いい感じだよ。彼 / 彼女をコーヒーにでも誘ってみよう!”

 

 

sf4

 

If this was your last year alive, what would you be doing differently?

 

“もし今年が生きられる最後の年だとしたら、あなたはいつもと違ってどんなことをしているだろう?”

 

 

いつもは考えていないけど、いざ言われると、つい気にしてしまうようなメッセージの数々。

 

きっとこの街を通りかかったら、単なる街の散策が「鏡を探す体験」へと変わることでしょう。

メッセージを受け取ることで、単なる日常が、誰かに感謝したくなる日に変わったり、今日はツイてる気分になったりもします。

 

まさにコミュニケーションひとつで、モノの体験価値を変えてしまう事例です。

 

また、メッセージが書かれているのが「鏡」というのもいいですよね。

多くの人は自分の身だしなみを気にしていますので、鏡があるとつい見てしまいますし、つい目の前で立ち止まってしまいます。

そんなときに、このメッセージを発見してしまう、という行動のデザインが秀逸だと思いました。

 

 

 

そしてもう1つの事例が、現在森ビルが実施している“森のこびと ヒルボックル”という施策。

 

 

hill1

 

六本木ヒルズの105万個のイルミネーションのなかに隠れているそうです。

みつけたら 恋を叶えてくれるなんて噂も。

 

 

hill2

 

土曜日の昼、 アークヒルズのマルシェで野菜を選んでいました。

お店のひとにシチューのレシピを聞いていたとか。

たくさん買い物をしたら駐車料金が無料になって いたく感動していたそうですよ。

 

 

hill3

 

毎月一回、サントリーホールで行われるパイプオルガンの無料コンサートのとき、ステージのどこかにいるみたい。

 

森のこびと ヒルボックル

 

 

これは、森ビル施設周辺には森の小人「ヒルボックル」がいるという架空の設定をしている施策。

 

ラジオやWEB、冊子などで小人たちの物語を紡ぎながら、実際に街のいたるところに、小人のオブジェを設置。

実際に小人を見つけた人には、幸運が訪れたり、オトクな情報をくれたり…といった小さな幸せが訪れる、という設定となっています。

 

(架空の存在をリアルに呼び起こす、という点での面白さは、“フィクションのノンフィクション化”の法則 に通ずるものがありますね。)

 

 

この施策においても、「ヒルボックル」という事前情報を与えられることで、街の散策が「ヒルボックルを探す体験」へと変わります

 

プラシーボ効果を活用した、素敵な事例だと思いました。

 

 

 

[Chapter 3] ブレスト・トライアル

プラシーボ効果で「地雷の怖さ」を訴えかけるには?

 

 

 

先進国の人々に“地雷の怖さ”を訴えかけて、地雷の不発弾駆除のための寄付金を募る活動を想定してみます。

 

プラシーボ効果を活用して、“地雷の怖さ”を体感させるようなプロモーションは考えられるでしょうか?

 

 

 

“プラシーボ効果”の法則にのっとれば、重要なのは、「この先、一歩踏み出したら地雷を踏んでしまうかも」という恐怖を認識させること。

 

であれば、どこでもいいのですが、たとえば汐留駅前のコンコースのような、だだっ広い空間を想定してみましょう。

 

 

untitled

 

 

そこに、たとえば、

 

今なお世界では、17平方メートルあたりに1つ、地雷が埋まっています。

それにより、カンボジアでは年間1000人もの人が被害に遭っています。

 

といったメッセージを掲げるとともに、17平方メートルあたりに1箇所、その地点を“踏む”と爆発音が聴こえるといった仕掛けを施すと、コンコースを通り抜けるという体験は「地雷を避けて歩く体験」に変わります

 

少々細かいですが、指向性スピーカーという「ある一点に立つとそこだけ音が聴こえる」装置も気軽に手に入ったりしますので、地雷のある一点を人が通った時だけ、爆発音とともに上記のメッセージを伝える、という仕掛けがあり得るかもしれません。

 

さらにお金をかけて演出するならば、その一点を踏むと、足元に爆発模様を描いたプロジェクションマッピングを施す、とか。

 

 

ex

 

(このようなイメージで、爆発の炎が足元に広がる映像を投射したり。)

 

 

 

パッと思いついた例に過ぎませんが、何か社会問題の啓発をする際に応用できる可能性も、少し感じていただければと思って書かさせていただきました。

 

 

実用性のある法則であることは確かなので、常にこの観点を持ってアイデアを考えられれば、と筆者は思っています。

 

 


 

※その他の類似施策は、以下URLにまとまっていますのでご参考ください。

アイデアの補助線(Pinterest)| プラシーボ効果 の法則

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