自分ゴト化を促したい

“物理的リアリティ”の法則

2016年3月6日

 

自分ゴト化をさせたい、とはつまり、“実感をもたせたい”ということだと思います。

 

そのための方法として、今回ご紹介する法則は、少々乱暴かもしれません。

丁寧に諭して優しく教えるのではなく、圧倒的な「リアル」を突きつけて強い実感を与える“物理的リアリティ”の法則です。

 

 

 

[Chapter 1] 事例から法則を読み解く

宮沢賢治が妹の死を悼んで綴った詩の“肉筆原稿”に圧倒される。

 

宮沢賢治、といえば、「銀河鉄道の夜」や「雨にも負けず」などが有名でしょう。

 

しかし、あまり知られていない秀作のひとつに、「永訣の朝」という詩があります。

永訣とは“永遠の別れ”を意味しますが、何との別れを綴った詩か。

 

それは、最愛の妹トシ(作中ではとし子)が、24歳の若さでこの世を去ったときの心情を綴ったものになります。

 

全編ご紹介するとかなり長いので、冒頭部分だけ以下、引用します。

 

 

 

永訣の朝(えいけつのあさ)

 

けふのうちに とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ

今日のうちに 遠くへ行ってしまう私の妹よ

みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ

みぞれが降って、表は変に明るいのだ

 

(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

( 雨雪 取ってきてちょうだいな )

 

うすあかく いっさう 陰惨な 雲から みぞれは びちょびちょ ふってくる

薄赤く、いっそう陰惨な雲から みぞれはびちょびちょ降ってくる

 

(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

( 雨雪 取ってきてちょうだいな )

 

青い蓴菜の もやうのついた これら ふたつの かけた 陶椀に

青いじゅんさいの模様のついた これら二つの欠けた陶椀に

おまへが たべる あめゆきを とらうとして

おまえが食べる雨雪を取ろうとして

わたくしは まがった てっぽうだまのやうに この くらい みぞれのなかに 飛びだした

私は曲がった鉄砲玉のように この暗いみぞれの中に飛び出した

 

(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

( 雨雪 取ってきてちょうだいな)

 

蒼鉛いろの 暗い雲から みぞれは びちょびちょ 沈んでくる

蒼鉛色の暗い雲から  みぞれはびちょびちょ沈んでくる

ああ とし子 死ぬといふ いまごろになって わたくしを いっしゃう あかるく するために

ああ、とし子 死ぬという今頃になって 私を一生明るくするために

こんな さっぱりした 雪のひとわんを おまへは わたくしに たのんだのだ

こんなさっぱりした雪の一椀を おまえは私に頼んだのだ

 

ありがたう わたくしの けなげな いもうとよ

ありがとう、私の健気な妹よ

わたくしも まっすぐに すすんでいくから

私も真っ直ぐに進んでいくから

 

(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

( 雨雪 取ってきてちょうだいな )

 

※ こちらのサイトで紹介されていた現代語訳を参考にしています。

 全編をご覧になりたい方は、リンク先をご確認ください。

 

 

 

最愛の妹を失った、宮沢賢治の複雑な心境。

それが、とても美しく、儚げな言葉で綴られています。

 

 

…と、思っていました。

 

 

「永訣の朝」の、肉筆原稿を目にするまでは。

 

 

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こちらは、花巻の宮沢賢治記念館に所蔵されている「永訣の朝」の肉筆原稿になります。

 

 

不安定で、とても弱々しい文字。

この画像からは読み取れませんが、書いては消し、消しては書いた、苦悩にまみれ汚れた筆跡も、かなり生々しく残っています。

 

 

この肉筆原稿は、読み手が見落としていた、当たり前の事実を強く突きつけます。

 

最愛の妹を失った、圧倒的な悲しみや、葛藤、絶望。

そして、その先にかろうじて見出した、かすかな決意と希望。

 

デジタル処理されてしまった美しい文体からは決して図れない、作者の本心そのものが、肉筆原稿にはくっきりと浮かび上がっています。

 

 

 

翻して、情報化社会が発達した現代では、知識の大半を、「受け取りやすく処理された」静的でやさしい文字・画像情報から得ることが多いです。

そこからは、確実に、当事者や現場だけに宿る生々しい熱量、温度が、失われている。早い話、“リアリティ”が欠けています。

 

だからこそ、物理的に手触りのある「リアリティ(の断片)」を目の前に突きつけられることで、見落としていたものにハッとさせられ、急激に“自分ゴト化”される。

 

 

宮沢賢治の「永訣の朝」も、肉筆原稿と照らし合わせてあらためて読むことで、一気に彼の感情がなだれ込んでくる感覚を覚えました。

 

 

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[ “物理的リアリティ”の法則|Point ]

情報に「実感」や「現実味」が欠けていないかを探る

当事者や現場に残された「リアリティ」の強さに目をつける

「物理的に触れられる」カタチで目前に突きつける

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以降では、この法則を念頭に置きながら、活用イメージを深めていきます。

 

 

 

[Chapter 2] 法則から事例を読み解く

世界の子どもたちにキレイな水を届ける“必要性”を訴えるには?

 

世界では、今なお何十億人という方がキレイな水にアクセスする事ができません。

そして、毎日4000人以上の子ども達が、“汚い水”が原因で命を落としています。(2010年当時)

 

 

この事実を念頭に、“物理的リアリティ”の法則を活用すると、どのような寄付キャンペーンが考えられるでしょうか?

 

 

キレイな水が必要、ということを気づかせる一番の薬は、やはり子どもたちが普段から飲まざるをえない“汚い水”を実際に目のあたりにすることなのではないでしょうか。

 

そんな着眼点から、ユニセフが行ったのは“Dirty Water”というキャンペーンです。

 

ユニセフがニューヨークのど真ん中に設置したのは、なんと、1ドルで「汚い水」が買える自動販売機でした。

 

 

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この鮮やかなデザインの自動販売機には、チフス、コレラ、赤痢等8種類の病原菌入りの水が売られています。

つまり、途上国ではお金を払ってもこんな水しか飲めないことを伝え、キレイな水の必要性を訴えてるんですね。

 

 

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「汚い水」しか飲めない、という惨状に全くリアリティをもてない先進国の人々へ訴えかける手段として、とても力強く効果的だと思います。

 

 

 

まさにこうした、問題に対する“リアリティ”を感じさせるような手法でショックを与え、振り向かせようと試みた類似施策は、他にもいくつか見られます。

 

 

たとえば、「喫煙の恐ろしさ」を訴え、健康促進を図りたかったタイの政府組織・Thai Health Promotion Foundationの事例。

 

タバコを吸い続けると肺の細胞が破壊され「肺が真っ黒になる」という事実をもとに、タバコを50年間吸い続けて亡くなった男性の肺を摘出し、真っ黒な肺から「黒いインク」を抽出してしましました。

“The Message from the Lungs(肺からのメッセージ)”という施策です。

 

 

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The Message from the Lungs (Thai Health Promotion Foundation) from BBDO Bangkok on Vimeo.

 

 

 

…と、ここまでかなりドギツいリアリティを突きつける事例が続いてしまいましたので、もうひとつだけ、心温まる施策をご紹介。

 

NGOのSave the Childrenが2012年に実施した“A Heartbeat’s Journey”という施策です。

 

 

 

 

Save the Childrenが実施している、 難民キャンプ等の人たちへのメディカルチェック。

 

その際、子どもたちの「心音(鼓動)」を録音して、 音源をアーティストのOne Republicのメンバーに手渡します。

そしてその心音(鼓動)のリズムをベースにした楽曲「Feel Again」をアーティストに制作してもらい、販売。

その売上げの一部をSave the Childrenに寄付した、という試み。

 

 

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この施策に関しては、当然、有名なアーティストを起用したという力強さが、このキャンペーンを成功に導いた大きな要因のひとつであることは間違いありません。

 

しかし、従来の“楽曲を通した寄付”と大きく異なるのは、音楽を聞くという体験そのものを、まるで難民の子どもたちの心臓に直接聴診器を当てるかのような体験に変えてしまっていること。

そして、「心音(鼓動)」という、圧倒的な「生」へのリアリティを直接届けていること。

 

だからこそ、「こんな世界でも、いまなお、力強く生きようとしている子どもたちがいる」というリアルを、 まっすぐ、ありのままに、感じさせてくれます。

 

そんな事実を、One Republicのポシティブで希望に満ちたメロディーがさらに助長し、まるで生命賛歌のような圧倒的なエネルギーをもって僕らに何かを訴えかける。

 

 

本当に素晴らしい施策だと思いました。

 

 

 

[Chapter 3] ブレスト・トライアル

“服がない”難民への「衣服の寄付」を集めるには?

 

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上記の写真は、ユニクロが実施している古着の回収/寄付活動。

 

世界中の難民キャンプでは、いまなお何千万人という人が、明日着替える服がなくて困っているといいます。

 

 

人間が生活する上で欠かせないのが「衣・食・住」とはよくいいますが、しかしこの衣服、他の食・住に比べると、必要性のリアリティが欠けがちだという印象はないでしょうか?

 

もちろん、必要性を感じて寄付をしている、という人もいるとは思いますが、きっと大多数の人は「もう着なくなったから、ついでに」というモチベーションで、断捨離感覚で服の寄付を行っているように思います。

 

 

当然、それが悪いわけではありません。

 

ただ、“着る服がない”という悲惨さへのリアリティを感じさせることができれば、もっと服の寄付は加速するかもしれません。

 

 

そのヒントとなりそうなのが、ナショナルジオグラフィックが捉えた、以下の一枚の写真。

 

 

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シリア北東部にあるネウロズ難民キャンプは、雨が降り続き、足首まで泥に埋もれる。

たわんだテントの中で、ムフシン・エドは力なくうずくまる。

毛布で作った上着は、泥にまみれている。

暖房に使う灯油はなく、かまどにくべる乾いた薪も底を尽きかけている。

快適さとはほど遠い場所だ。

冬のシリア難民を襲う3重苦

 

 

シリア難民キャンプでは、毎冬、氷点下を下回る気温と雨雪、そして強風に晒されてしまいます。

 

そんな中、薄い衣服と毛布にくるまりながら、必死に寒さを耐えしのぐ姿。

「着る服がない」ということが、そのまま生命の危機に直結するという“リアリティ”を与えるのではないでしょうか。

 

 

なので、たとえば。

 

 

“店頭のマネキンを、極寒の冬を耐えしのぐ難民たちの服に変えてしまう”というのはどうでしょう。

 

 

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イメージとしては、これらのマネキンに、難民が普段着ている薄い布を着せる。

ショーケースの室内温度は氷点下に保ち、風を送り、現地の状況を再現。

ケースに手だけ入れられるように、冷気が室外へ逆流しないような弁の付いた穴をつけるのもいいかもしれません。

 

 

こんな状況で、布一枚で暮らせるわけがない。

 

そう感じさせることが、さらに服の寄付を加速させる、ささやかな効力を発揮するかもしれません。

 

 

 

あくまで例として今回は難民の衣服の問題を取り上げましたが、他にも、“リアリティが欠けている”せいで見過ごされている問題は多いと思います。

 

伝わるべきものは、きちんとした強度を持って、届けられるといいですね。

 

 


 

※その他の類似施策は、以下URLにまとまっていますのでご参考ください。

アイデアの補助線(Pinterest)| 物理的リアリティ の法則

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Comments

  1. 漫画『宇宙を駆けるよだか』に学ぶ、“入れ替わり”のもたらす「エグい自分ゴト化」ー“部分交換”の法則|アイデアの補助線

    2016年3月27日 at 3:26 PM

    […] この“部分交換”の法則は、“当事者疑似体験”の法則以上に「本人になり代わる」という意味では強い体験を呼び起こし、“物理的リアリティ”の法則にも通ずる、五感に訴える深い理解をもたらします。 […]

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